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身近な有機溶剤
2022.03.07
【有機溶剤とサステナビリティ】フィルムのデラミネーションについて
最近、「SDGs(エスディージーズ)」や「サステナビリティ」という言葉をよく耳にするようになりました。今日は、溶剤とSDGs、溶剤とサステナビリティについて、世界の流れと、弊社で取り組んでいることについて少しお話いたします。
目次
SDGsとサステナビリティ
まず、SDGsは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称です。2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連に加盟している193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標のことをいいます。
一方でサステナビリティとは、直訳すると「持続可能性」ですが、「持続可能な世の中にしていこう」という考え方のことをいいます。
例えば、石油資源は有限でいつかはなくなると言われているのは皆さんも耳にしたことがあるでしょう。それを、電気や水素といった持続可能なエネルギーに置き換えることも、サステナブルな取り組みの一つです。
SDGsとサステナビリティは混同されて使用されることが多いですが、言葉の定義が違います。簡単にまとめます。
SDGs
15年間での持続可能性を追求する目標
サステナビリティ
期限関係なく、持続可能性を考えることそのもの
溶剤とサステナビリティ
有機溶剤と聞くと、環境に対して良いイメージを持つ方は少ないのではないでしょうか。しかし、有機溶剤の世界にもサステナビリティ(持続可能性)を考えた事業があります。
それは、有機溶剤の再生事業です。
有機溶剤を再生するためには、液体(廃液)を蒸気にして、蒸留再生します。再生された有機溶剤は、再生品として需要家に提供されます。事業として行われている蒸留再生には、蒸留塔という大型の設備が必要です。
そのため、事業としての有機溶剤の再生は専業のメーカーが行っていることがほとんどです。(一部、有機溶剤のユーザーがシンナー再生機や小型の蒸留再生機を用いて、溶剤の再生・使用を行っているケースもあります)
有機溶剤はほとんどがそのまま産業廃棄物として処分されますが、再生が可能な廃液、再生後に買い手がつく汎用溶剤は、蒸留再生して再利用する、という持続可能な取り組みが行われています。
サステナビリティという言葉は最近になって注目を浴びていますが、有機溶剤の蒸留再生というサステナブルな活動は50年以上も前から行われています。
世界の化学業界のSDGsとサステナビリティ
有機溶剤に限らず、世界の化学業界はどのような取り組みをしているかみてみましょう。2015年SDGsが採択され、アメリカに本社を置く「ダウ・ケミカル」は2025年に向けた取り組みとして、以下の目標を掲げています。
①水不足地域における淡水資源の利用と廃棄物を20%削減
②再生可能エネルギーから400メガワットの電力の生成など
また、大手化学メーカー「BASF」では、SDGsの17の目標それぞれに対し、具体的な施策を掲げています。例えば【貧困をなくそう】に対しては、発展途上国でのベンチャービジネスの支援を行ったり、【ジェンダー平等を実現しよう】に対しては、役員の女性比率を増やしたり、LGBTQIA+や多様な人種の理解を深めるためのキャンペーンを行っています。
他にも、製品としてサステナビリティに貢献している化学メーカーもあります。
2020年11月、「Chemical Week」というニュースメディアが、「サステナビリティ・アワード」という部門に受賞した企業や商品を発表しているのですが、その中で、「ダウ・ヨーロッパ」が表彰されています。その理由として、廃棄されたマットレスからポリウレタンを回収し、再生したポリウレタンをマットレスや建築用断熱板などの原材料として使用する「RENUVA」という仕組みを作ったことが挙げられます。
企業としての姿勢だけでなく、その商品やサービスによっても、サステナビリティに貢献でき、既に多くの企業がそれらに積極的に取り組んでいることがわかります。
三協化学とサステナビリティ
弊社では、有機溶剤を通じて持続可能性に貢献するため、溶剤を使ったリサイクルを支援しています。「溶剤を使ったリサイクル」は、溶剤の再生使用とはまた別で、具体的に言うと、フィルムの「デラミネーション」や脱墨を行い、多層フィルムを素材ごとにバラバラにする、というものです。
デラミネーションとは
ラミネートフィルムが剥がれること、また、ラミネートフィルムを剥がすことをいいます。デラミネーションは英語表記で「delamination」と書き、相関剥離を意味します。de-raminationと分解して考えると、de=否定・離れる、lamination=ラミネート加工、となり、ラミネートが剥がれる(剥がす)ことだと分かります。
通常、お菓子の袋やレトルトの袋、化粧品などの詰め替えパウチなどは多層フィルムになっており、様々な樹脂が層状になっています。
そのため、リサイクルが難しく、これまでは焼却処分されてきました。
自治体によってはプラスチックごみとして、包装容器やカップ麺の容器、ペットボトルのラベルなどを燃えるごみとは別に分別して回収しているところがあります。分別しているしている側からすると、分別に協力することによって、その全てが新たなプラスチックに生まれ変わると思われるかもしれませんが、実際には違います。回収されたプラスチックごみの一部はプラスチックとして再利用されますが、6割以上は燃料として、最終的に焼却されてしまいます。
より樹脂として再利用するために、デラミネーションをして、樹脂素材ごとに分ける必要があるのです。
弊社では、60年以上蓄積されてきた有機溶剤の知見と溶剤調合技術をもとに、多層フィルムを分離できる溶液を開発し、これにより、デラミネーション・脱墨されたフィル物再生が可能になりました。
★実験★
ここからは試験した多層フィルムの分離(溶剤でのデラミネーション試験)について紹介します。
試験の対象に使用したものは、お菓子の袋、レトルト食品の袋、インスタント食品の袋など数種類です。お菓子の袋と言っても、例えばポテトチップスに使われるような、内側にアルミが使われている袋、チョコ菓子に使われるような中身の見える透明な袋など、種類は様々なので、いろんなタイプを用意しました。
まず、それらの素材をフレーク状(下図参照)にします。
次に、対象となる液剤に浸けて放置し、経過を観察します。
今回の場合は48時間後にフィルムの分離が確認できました(下図)
1つのフィルムが複数にバラバラになりました(デラミネーションしている)。二股に分かれて剥がれ切っていないのは、最下層のフィルムです。フィルム同士が重ねられる際の方法や、フィルムの素材によっては最下層が剥がれないケースがあります。
ちょこっと販促
日本ではまだフィルムを再生しようという企業が少ないため、こういったデラミネーションの技術は今のところ注目されていません。今後このような技術の存在の拡散、そして更なる技術発展により、サステナビリティへの貢献が期待できるでしょう。
世界のデラミネーション、フィルム再生の取り組み
日本ではまだフィルムを再生しようという企業は少ないのですが、世界の企業ではどうでしょうか。
デラミネーションとは別の視点ではありますが、フィルムの再生に取り組んでいる事例をまずご紹介します。通常、フィルムは多層フィルムにすることによって、空気や細菌に触れず品質を維持したり、紫外線の影響を少なくしたり、温度・湿度の影響を受けないようにするなどして中身を保護しています。しかし、これを単層(1層)フィルムにして、リサイクルを簡易的にしようと取り組んでいる企業がありました。
ダウ・ケミカルの「RecycleReady」という技術は、もともとPET(ペットボトルの素材)とPE(ビニール袋の素材)でできた多層フィルムを、PEベースの単層フィルムに置き換えられる、という技術です。この技術で作られた食品などのフィルムは、PEだけの素材のため、容易にPE由来の製品に再利用することができます。
多層フィルムの再生には、研究レベルで多くの科学者がフィルムのリサイクルをテーマに取り組んでおり、シクロアルカン、ノルマルアルカン、イソアルカンという有機化合物を用いて、多層フィルムからポリオレフィンという素材だけを溶解して、後に析出させて再生する方法(特許取得済)や、水、ベンジルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)を配合した溶媒に浸漬してデラミネーションする方法(特許取得済)など、様々な方法が考案されています。
特にヨーロッパでは、デラミネーションの技術やフィルムのリサイクル技術が盛んに研究されており、環境負荷低減への対応が他国よりも進んでいます。
まとめ
SDGsは2030年までの目標ですが、サステナビリティ(持続可能性)を考えることは人類の永遠のテーマです。ヨーロッパと比較してしまうと日本の対応は遅れていますが、昨今の電気自動車やクリーンエネルギーの流れのように、サステナビリティの一環としてデラミネーション技術やフィルム再生技術も今後注目されてくるでしょう。
参考文献
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