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化学規制
2024.12.03
化学物質のリスクアセスメントとは?実施方法などをわかりやすく解説
有機溶剤を取り扱うとき避けては通れない化学物質のリスクアセスメント。詳しい内容は多岐にわたり複雑ですので、概論をわかりやすく解説します。
目次
リスクアセスメントとは?
リスクアセスメント(risk assessment) は日本語に訳すと危険性の評価という意味になり、職場の潜在的なあらゆる危険性や有害性などを見つけ出して、リスクの低減方法を検討する一連の流れのことです。労働災害防止のために実施するもので、厚生労働省が所管しています。
※化学物質のリスクアセスメントを含め、化学物質の管理において、危険性は設備や機器の爆発や引火の恐れ、有害性は労働者の健康に悪影響を及ぼす恐れの意味で用います。
参考リンク:厚労省「職場の安全サイト:リスクアセスメント[安全衛生キーワード]」
化学物質のリスクアセスメントとは?
化学物質のリスクアセスメントとは、危険性・有害性がある化学物質を取り扱う事業場で実施するリスクアセスメントです。
事業者が自主的に化学物質やその製剤の危険性や有害性を特定し、労働者への危険または健康被害の恐れの程度を見積もって、リスクの低減策を検討します。
危険性・有害性がある化学物質を含む新規原料・製品を事業所で使うと決めたときや作業環境を変えたとき、SDS(安全データシート)の更新があったときに実施します。
※SDSについては別の記事「安全データシート(SDS)について」で解説しています。詳しく知りたい方は併せてお読みください。
そるぶ
化学物質のリスクアセスメントは、危険性・有害性がある化学物質を含む新規原料製品を採用したときとSDSの更新があったとき、作業環境を変えたときなどに実施しよう!
化学物質管理のあり方
化学物質のリスクアセスメントは、労働安全衛生法が2014年6月に改正されたことで、業種や事業者の規模を問わず、対象物質を取り扱う全ての事業者に義務化されました。
それまで化学物質の管理のあり方は、有機溶剤中毒予防規則や特定化学物質障害予防規則などの法令で規則を定め、事業者に遵守させるやり方でした。法令が改正されたことで、事業者が主体的にリスクを見積もり、対策を考えて自律的に管理する方針に変更となりました。
リスクアセスメントを実施しないと重大な労働災害につながる可能性があります。
また、労働基準監督署の行政指導の対象となり、労災の責任を問われる事態になりかねません。
そるぶ
リスクアセスメントを実施しないと重大な労災につながる恐れがあるよ!
リスクアセスメントの対象物(リスクアセスメント実施義務の対象となる物質・製品)
化学物質のリスクアセスメント実施の義務対象となる物質(以下、リスクアセスメントの対象物)は、労働安全衛生法でSDSの交付義務の対象となる896物質です。(2024年4月1日現在)
今後、順次追加され、2026年4月には約2900物質になるとされています。
現在、リスクアセスメントの対象物となっている物質は、厚生労働省の「労働安全衛生法に基づくラベル表示・SDS交付義務対象物質の一覧」で確認できます。
国のGHS分類で有害性があると区分された物質は、義務対象でなくてもリスクアセスメントの実施努力義務があります。
リスクアセスメントを実施する義務がある事業者
業種や規模に関係なく、リスクアセスメントの対象物を取り扱ったり、製造したりする全ての事業場ではリスクアセスメントを実施する義務があります。
製造業や建設業だけでなく、清掃業や卸売・小売業、飲食店、医療福祉業などでもさまざまな化学物質を取り扱っており、労働災害のリスクがあるためです。
※「取り扱い」とは労働者がリスクアセスメント対象物に曝露する恐れがある作業のことです。
例1:トラックでSDS交付義務がある製品を運ぶ⇒曝露の恐れがないため対象外
例2:営業職が客先にサンプルを届けるために一斗缶から採取することがある⇒曝露の恐れがあるため対象
そるぶ
業種や規模に関係なく、リスクアセスメントの対象物を取り扱う全ての事業所ではリスクアセスメントが必要になるよ!
化学物質による労働災害の事例
化学物質による労働災害は業種を問わず、さまざまな事業所で起こっています。
例えば、ある企業(業種は商業)の倉庫内で、作業員が雑巾に次亜塩素酸ソーダ水を染み込ませ、木製パレットに付着したカビを取り除いていたところ、両手が化学熱傷になった事例や、農協の米保管倉庫内で、作業員2人が燻蒸作業が終了した倉庫に入って、薬剤の撤去作業をしていたところ、倉庫内に充満したリン化水素を吸い込み、吐き気やしびれ、胸の痛み、下痢、呼吸困難になり救急搬送された事例など化学物質による労災は数多く発生しています。こうした労災を未然を防ぐために化学物質のリスクアセスメントを実施することが重要です。
リスクアセスメントの流れ
①化学物質などによる危険性・有害性の特定②リスクの見積もり③リスク低減措置の検討がリスクアセスメントの一連の流れです。具体的な実施方法は各事業者に委ねられています。
リスク低減措置の検討内容に基づき、④リスク低減措置の実施⑤リスクアセスメント結果の労働者への周知・記録も必要となります。
①化学物資などによる危険性・有害性の特定
リスクアセスメントの対象となる業務を洗い出した上で、SDSに記載されるGHS分類・曝露限界値などから危険性と有害性を特定します。
同時に適用される法令も確認しておくことをオススメします。
具体的にSDSのどこを確認すればいいの?
GHS分類 ⇒ SDS 2項 危険有害性の要約
曝露限界値 ⇒ SDS 8項 ばく露防止及び保護措置
法令 ⇒ SDS 15項 適用法令
危険性と有害性の特定
危険性:物理化学的危険性のGHS区分(爆発性・引火性・酸化性・事故反応性など) ⇒ 区分があれば危険性のリスクアセスメントが必要
有害性:健康に対する有害性のGHS区分(急性毒性・発がん性・生殖毒性など) ⇒ 区分があれば有害性のリスクアセスメントが必要
②リスクの見積もり
リスクの見積もりは、危険性と有害性のそれぞれで実施しなければなりません。
見積もり方法は複数ありますが、まずは簡易的なリスク見積もり手法を用いてスクリーニングをすることをお勧めします。
スクリーニングでリスクが高い結果が出た業務は、詳細評価が必要です。ただし、特別則(作業環境測定が規定される有機則や特化則など)に該当する場合は、規定された措置を実施していれば詳細なリスクの見積もりは不要です。
代表的なリスク見積もり方法は以下の通りです。
・危険性のリスク見積もり方法
分類 | ツール名 | 特徴 |
簡易的スクリーニングツール | 爆発・火災等のリスクアセスメントのためのスクリーニング支援ツール | 「はい」か「いいえ」で答えるだけの簡易的なシステム |
CREATE-SIMPLE(クリエイトシンプル) | 選択肢から回答を選ぶだけで、危険性だけでなく、有害性も同時に見積もれる | |
詳細に判定できるツール | 安衛研リスクアセスメント等実施支援ツール | スクリーニング支援ツールよりも精緻なリスクアセスメントの実施ができるが、専門的な知識が必要 |
・有害性のリスク見積もり方法
分類 | ツール名 | 特徴 |
簡易的スクリーニングツール | コントロールバンディング | 選択肢から回答を選ぶだけで、リスクを見積もることができる |
CREATE-SIMPLE(クリエイトシンプル) | 選択肢から回答を選ぶだけで、有害性だけでなく、危険性も同時に見積もれる | |
詳細に判定できるツール | 実測 | 実際に化学物質などの気中濃度を測定し曝露限界値と比較する 作業環境測定や個人曝露測定、検知管などを使った簡易的な測定などがある 他のツールよりも費用がかかる |
ECETOC TRA(エセトックティーアールエー) | 欧州化学物質生体毒及び毒性センター(ECETOC)が開発したツール 多くの化学物質を用いる場合に有効なツールだが、専門的知識が必要 |
結局どのツールを使えば良いか、わからないという方も多いと思います。
まずは、有害性と危険性のリスクアセスメントを同時にでき、操作が簡単なクリエイトシンプルを使ってリスクを見積もることをおすすめします。
屋内作業場では労働者の曝露程度を最小限にする義務が事業者に課せられています。
実測するのは費用と時間がかかるため、初期調査としては曝露の推定が重要です。
クリエイトシンプルでは数理モデルというツールで曝露の推定ができます。
数理モデル以外のツールでリスクアセスメントをした場合は別途、曝露の推定をすることになります。
クリエイトシンプルの推定曝露量は実測値よりも10倍以上高くなるように設計されており、状況によっては100倍以上の差が出ることもあります。(あくまで設計値なので、実測値が常に10分の1以下になることを保証するものではありません)
クリエイトシンプルの推定曝露が基準値を超えたとしても、すぐに使用できないと判断できるものではありません。
③リスク低減措置の検討
リスクの見積もり結果に基づいて、危険性または有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用という順番に従い、対策を検討する必要があります。
多重保護の考え方
異常発生防止対策:異常を発生させないこと
事故発生防止対策:事故を発生させないこと
被害の局限化対策:事故が発生してもできる限り被害を局限化(一定の範囲内に抑えること)すること
異常発生検知対策:上記のリスク低減措置三つを検知するためのセンサーなどを設置すること
火災・爆発等発生に至るシナリオの進展をできるだけ早い段階で止めるために上記を上から順に検討します
リスクアセスメントの指針の第10項
本質安全対策:危険性または有害性のより低い物質への切り替えや、化学反応のプロセスなどの条件の変更、取り扱う化学物質の形状の変更など
工学的対策:化学物質のための機械設備などの防爆構造化、安全装置の二重化などの工学的対策、化学物質のための機械設備などの密閉化、局所排気装置の設置などの衛生工学的対策
管理対策:作業手順の改善、立入禁止などの管理的対策
保護具の着用:化学物質などの有害性に応じた有効な防毒マスクや防塵マスクなどの保護具の使用
上記の対策は上から順番に実施することが望ましいです。
そるぶ
保護具の着用は、優先順位が一番低いけど、現場では漏洩などのトラブルの可能性があるから、保護具の着用は極めて重要だよ!
④リスク低減措置の実施
③で検討した措置は速やかに実施します。なお、死亡や後遺障害、重篤な疾病の恐れのあるリスクには、暫定措置を直ちに実施します。
⑤リスクアセスメント結果の労働者への周知・記録
リスクアセスメントを実施したら、特定した危険性や有害性、見積もったリスクアセスメントの結果と対象物質の名前、対象の業務内容、リスク低減措置の内容などを周知します。
作業場に常時掲示したり、書面を労働者に配ったり、常時確認可能なパソコン端末などを設置したりして知らせます。
リスク低減に基づく措置の内容と労働者の曝露の状況を、労働者の意見を聞く機会を設け、記録を作成し3年間保存しなければなりません。ただし、がん原性のある物質として厚労大臣が定めるもの(がん原性物質)は30年間保存です。
化学物質のリスクアセスメントのまとめ
化学物質のリスクアセスメントを実施することで、リスクを可視化でき、適切な対策を講じることができます。
労働者の安全を確保し、労働者が安心して働く環境を整備することが事業者には求められています。
リスクアセスメントは多岐にわたり、全てを説明しようとすると莫大な量になりますので、この記事ではリスクアセスメントの概論となっています。
より詳しく知るには化学物質管理者講習を受けることをお勧めします。
リスクの低減をお考えの場合や、化学物質のリスクアセスメントについてご不明点があればお問い合わせください。
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