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化学規制
2024.04.10
臭素系溶剤の新たな規制について(1-ブロモプロパンの規制、2024年4月施行)
2024年4月より臭素系溶剤(主成分:1-ブロモプロパン)への新たな規制が始まります。
この記事では、臭素系溶剤の新たな規制の概要とその経緯、代替品について解説します。
目次
臭素系溶剤(1-ブロモプロパン)の新たな規制とは?
厚生労働省から2024年4月1日より新たな規制が施行され、1-ブロモプロパンを含む製品を使用する作業環境の濃度の基準が設けられました。
具体的には、1-ブロモプロパンを含む製品(臭素系溶剤、臭素系洗浄剤)を製造または使用する事業所において、空気中の1-ブロモプロパンの濃度を0.1ppm以下(8時間加重平均値)にしなければなりません。
この基準値は労働安全衛生法で定められていますが、現在は努力義務となっているため、違反しても罰則等はありません。
1-ブロモプロパンの規制とは?どんなもの?
今回の濃度基準の設定は、1-ブロモプロパンだけを対象にしたものではありません。
厚生労働省が労働安全衛生法の第577条の2第2項に定める67物質が対象とされており、その1つに臭素系洗浄剤の主成分である1-ブロモプロパンが含まれています。
この第577条の2第2項には以下のことが書かれています。
事業者は、リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがない物として厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)を行う屋内作業場においては、当該業務に従事する労働者がこれらの物にばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準以下としなければならない。
出典:労働安全衛生法
法律なので難しく書かれていますが、簡単に言うと「労働者が安全に働くために対象物質を使用している場合は労働者が吸い込んだり、体に吸入する量を基準以下にしてください。」というものです。
濃度基準が定められている67物質
安衛法第577条の2第2項が対象にしている67物質の物質名と濃度基準は以下です。
下表の下から8番目に1-ブロモプロパンが表記されています。
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濃度基準が定められている67物質と濃度基準
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化学物質名 八時間濃度基準 短時間濃度基準値 アクリル酸エチル 2ppm ― アクリル酸メチル 2ppm ― アクロレイン ― 0.1ppm※ アセチルサリチル酸(別名アスピリン) 5㎎/m3 ― アセトアルデヒド ― 10ppm アセトニトリル 10ppm ― アセトンシアノヒドリン ― 5ppm アニリン 2ppm ― 1―アリルオキシ―2,3―エポキシプロパン 1ppm ― アルファ―メチルスチレン 10ppm ― イソプレン 3ppm ― イソホロン ― 5ppm 一酸化二窒素 100ppm ― イプシロン―カプロラクタム 5㎎/m3 ― エチリデンノルボルネン 2ppm 4ppm 2―エチルヘキサン酸 5㎎/m3 ― エチレングリコール 10ppm 50ppm エチレンクロロヒドリン 2ppm ― エピクロロヒドリン 0.5ppm ― 塩化アリル 1ppm ― オルト―アニシジン 0.1ppm ― キシリジン 0.5ppm ― クメン 10ppm ― グルタルアルデヒド ― 0.03ppm※ クロロエタン(別名塩化エチル) 100ppm ― クロロピクリン ― 0.1ppm※ 酢酸ビニル 10ppm 15ppm ジエタノールアミン 1mg/m3 ― ジエチルケトン ― 300ppm シクロヘキシルアミン ― 5ppm ジクロロエチレン(1,1―ジクロロエチレンに限る。) 5ppm ― 2,4―ジクロロフェノキシ酢酸 2mg/m3 ― 1,3―ジクロロプロペン 1ppm ― 2,6―ジ―ターシャリ―ブチル―4―クレゾール 10mg/m3 ― ジフェニルアミン 5mg/m3 ― ジボラン 0.01ppm ― N,N―ジメチルアセトアミド 5ppm ― ジメチルアミン 2ppm ― 臭素 ― 0.2ppm しよう脳 2ppm ― タリウム 0.02mg/m3 ― チオりん酸O,O―ジエチル―O―(2―イソプロピル―6―メチル―4―ピリミジニル)(別名ダイアジノン) 0.01mg/m3 ― テトラエチルチウラムジスルフィド(別名ジスルフィラム) 2mg/m3 ― テトラメチルチウラムジスルフィド(別名チウラム) 0.2mg/m3 ― トリクロロ酢酸 0.5ppm ― 1―ナフチル―N―メチルカルバメート(別名カルバリル) 0.5mg/m3 ― ニッケル 1mg/m3 ― ニトロベンゼン 0.1ppm ― N―[1―(N―ノルマル―ブチルカルバモイル)―1H―2―ベンゾイミダゾリル]カルバミン酸メチル(別名ベノミル) 1mg/m3 ― パラ―ジクロロベンゼン 10ppm ― パラ―ターシャリ―ブチルトルエン 1pm ― ヒドラジン及びその一水和物 0.01ppm ― ヒドロキノン 1mg/m3 ― ビフェニル 3mg/m3 ― ピリジン 1ppm ― フェニルオキシラン 1ppm ― 2―ブテナール ― 0.3ppm※ フルフラール 0.2ppm ― フルフリルアルコール 0.2ppm ― 1―ブロモプロパン 0.1ppm ― ほう酸及びそのナトリウム塩(四ほう酸ナトリウム十水和物(別名ホウ砂)に限る。) ホウ素として0.1 mg/m3 ホウ素として0.75 mg/m3 メタクリロニトリル 1ppm ― メチル―ターシャリ―ブチルエーテル(別名MTBE) 50ppm ― 4,4’―メチレンジアニリン 0.4mg/m3 ― りん化水素 0.05ppm 0.15ppm りん酸トリトリル(りん酸トリ(オルト―トリル)に限る。) 0.03mg/m3 ― レソルシノール 10ppm ―
8時間濃度基準値と短時間濃度基準値
上記の表では8時間濃度基準値と短時間濃度基準値の2つの基準値が設けられています。
どちらの67物質の基準値も、リスク見積もりの段階でばく露量が超える可能性がある場合は作業場所で濃度を測定しなければなりません。
考え方や計算方法の詳しい解説は厚生労働省の資料を参照してください。
労働安全衛生規則第五百七十七条の二第二項の規定に基づき厚生労働大臣が定める物及び厚生労働大臣が定める濃度の基準等について(報告)
(化学物質による健康障害防止のための濃度の基準関係)
ここでは8時間濃度基準値と短時間濃度基準値の定義のみ説明します。
8時間濃度基準値…1日の労働時間のうち、対象の化学物質に晒されている8時間において、化学物質の濃度を何度か測定し、各測定の測定時間を加重平均した値。
短時間濃度基準値…短時間の濃度基準値。短時間がどのくらいの時間を指すかは定められていないが、15分間時間加重平均値が超えてはならない値として設定されている。
臭素系溶剤とその実態
1-ブロモプロパンは臭素系溶剤、臭素系洗浄剤として販売されていますが、主な用途は洗浄(油脂、樹脂類など)です。
また、SDSを見ると1-ブロモプロパンが含まれていることはわかりますが、製品名はメーカーごとに違います。
以下に各メーカーごとの商品名を参考に記載します。
●臭素系洗浄剤(主成分:1-ブロモプロパン)の製品
製品名 | メーカー名 |
アブゾール(ABSOL) | アルベマール |
TA-1000 | 日東化学産業 |
eクリーン21N | カネコ化学 |
SC-52S | ディプソール |
ファインゾルB-100 | 三協化学 |
1-ブロモプロパンが使用されてきた背景
1-ブロモプロパンは塩素系溶剤(ジクロロメタン、トリクロロエチレン、パークロロエチレン)の代替品として使用されてきました。
それまで塩素系溶剤は脱脂洗浄や樹脂洗浄剤として、安価で、洗浄力が高く、乾燥性が良く、不燃であるため広く使われいました。
しかし、塩素系溶剤の中で発がん性のある物質は、2014年に有機溶剤中毒予防規則(有機則)から特定化学物質障害予防規則(特化則)に該当するようになりました。
1-ブロモプロパンは有機則、特化則にも該当しておらず、塩素系溶剤と同様に不燃であるという特徴があります。
価格的には塩素系溶剤と比べると上がるものの、洗浄力、乾燥性、不燃性という特徴が似ており、さらに有機則・特化則非該当になるという理由から臭素系洗浄剤への代替がされてきたという背景があります。
1-ブロモプロパンの濃度基準値0.1ppmは対応不可能
新たな規制では1-ブロモプロパンの濃度基準値が0.1ppm(8時間濃度)に設定されていますが、実際は対応できない可能性が非常に高いです。
臭素系洗浄剤が塩素系溶剤の代替として使用されてきたことは前述しましたが、代替されてきた理由の1つとして塩素系溶剤と同じ洗浄設備が使用できたということが挙げられます。
塩素系溶剤の洗浄はべーパー洗浄(蒸気洗浄)で用いられることが多く、大きな洗浄槽が使用されていました。
以下のような洗浄槽の場合、上部が常に空いているため、回収できなかった溶剤の蒸気が作業場内に充満します。
仮に後付けで蒸気の発散を抑えるために、洗浄槽に蓋のようなものを取り付けても完全に蒸気が発散するのを防げるわけではありません。
この場合、取扱量や方法にもよりますが、0.1ppm(8時間濃度)の基準値以下にするには電動ファン付き呼吸用保護具の導入・換気装置の更新等の大きな対策が必要になる可能性が高いです。
臭素系洗浄剤の代替品
1-ブロモプロパンに関する新たな規制に対応するためには、多くの場合が1-ブロモプロパン以外のものに代替するしかありません。
ここでは臭素系洗浄剤の代替品となりうる製品のメリット、デメリット、使用方法について紹介していきます。
以下は代表的な製品を挙げていますが、用途によっては他の製品が適用可能な場合もあります。
代替品を探されている場合は、弊社のお問い合わせフォームよりお問い合わせください。
炭化水素系洗浄剤
臭素系洗浄剤を脱脂洗浄剤として、浸漬等の機械を使用しない洗浄方法の場合、代替できる可能性があります。
【メリット】
・脱脂洗浄においては、油脂との相性が良く洗浄力が高い傾向にある。
・比較的に安価なものが多い。
・塩素系・臭素系溶剤と比べると洗浄剤自体の有害性が低く、安全性が高い。
・引火点が低いものは、乾燥が早い。
【デメリット】
・引火点がある。(消防法上の管理が必要)
・引火点が高いものは乾燥が遅くなる傾向にあり、専用洗浄機が必要になる。
【推奨用途】脱脂洗浄
【使用方法】浸漬、ウエス拭き、専用洗浄機(減圧蒸気洗浄機等)
準水系洗浄剤
塩素系溶剤、臭素系溶剤と同じく消防法に非該当なため、洗浄力に問題がなければ使用できる可能です。
塩素系・臭素系に使用されるような加温する洗浄槽でも使用できる可能性があります。
【メリット】
・引火点がないため、消防法に非該当。
・臭素系、フッ素系溶剤と比べると安価な傾向にある。
【デメリット】
・成分の一部に水を含有しているため、水が付着してはいけないものの洗浄には使用できない。
・水が含有しているため、比較的乾燥は遅い。(エアーブローによりある程度の除去は可能)
【推奨用途】脱脂洗浄、樹脂洗浄
【使用方法】浸漬、ウエス拭き、超音波洗浄機、加温洗浄槽
弊社製品:準水系洗浄剤「ファインゾルWシリーズ」
フッ素系洗浄剤
塩素系溶剤、臭素系溶剤と同様に不燃性で速乾のため、よく代替品として検討されますが、洗浄剤の単価が高いため、密閉された専用の洗浄機内で使用以外に適さない傾向にあります。
【メリット】
・引火点がないため、消防法に非該当。
・乾燥性が非常によく、ジクロロメタンと同等の乾燥性がある。
【デメリット】
・単価が高く、塩素系の20-30倍、臭素系の5-10倍程度のコストがかかる。
・専用の洗浄機で使用しない限り、使用に適していない。
【推奨用途】脱脂洗浄
【使用方法】専用洗浄機(洗浄機が密閉されており、蒸留再生が可能なもの)
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